もう正午にさしかかろうとしている頃に、隣の家の車のエンジン音で目が覚める。天気は快晴で、僕の物置のような雑然とした自室に優しい光が差しこんでいる。
一年を締めくくる最終日だからといって、特別なことは何もない。
親はどこかへ買い物に行ってるみたいだ。冷凍食品のパスタをレンジで温めて食す。朝食というよりは昼食だ。
さっきも言った通り特別なことは何もないが、しかしちょっとだけ特別を味わいたいと思ったので、酒好きと言う訳でもないのだが、今晩はしこたま酒を飲むことにした。
バイクに跨って少し遠くの酒屋に出かける。日差しは強いが風は肌をつんざくように冷たく、指先が凍える。
酒屋へ向かう途中には、高校生のころにバイトしていたお菓子工場がある。
お菓子工場はいつの間にか改装されていて、当時の陰気くさい雰囲気を微塵も感じさせないオシャレな外観に変わっていた。「儲かってんだなぁ」と思った。
生クリームを絞ったりしてコンビニスイ―ツを作り続けていた日々が頭によぎる。
酒屋で酒を買った。
ガールズバーで働いている友人が以前お酒の種類とか飲み方について色々教えてくれた事がふいに思い出されたが、しかし内容を全く思い出すことができなかったので適当に選んだ。
高価な酒は馬鹿舌の僕には無用の長物なので、リーズナブルな酒の中から、瓶がカッコイイかどうかとか、色が綺麗かどうかで選んだ。後はビールと缶チューハイを買いこみ、帰路につく。
自室でハイネケンを飲みながらアニメを観ていたら、夕方ごろに強烈な睡魔に襲われたので、居間の炬燵に潜り込む。
はっと目を覚ますと食卓に夕食が並べられている。絶賛実家暮らし中の僕は自分で食事を用意する必要がない。家の者と卓を囲み、寿司と鍋を喰らう。
自室に戻り、飲酒を再開する。
僕はそこまでアルコールに強い方ではないので、ハイボールを5.6杯飲んだあたりで段々と脳みそがとろけ始める。
少し横になろうと目を瞑り、
――目を開けるともう既に2021年になっていた。
一瞬のつもりが、何時間も経過していたみたいだ。
毎年毎年寝正月なのだが、今年も例によって結局殆ど眠って過ごしてしまった。毎回寝過ぎたことを後悔するのだが、しかしかといって何かしたい事があるわけでもないので、僕にとってはベストな過ごし方なのだと思う。
ぼーっとする頭で2020年を振り返る。心おきなく外出出来る様な状況ではなかったので、殆ど楽しい思い出がない。仕事以外はひきこもりがちだったので体調も慢性的に優れなかった。
僕史上屈指のロクでもない一年だった。
2021年は――勿論健康第一で――ちょっとくらい旅行やらツーリングやらに行きたいなぁと考えながら、再びベッドに横になり、部屋の照明を消した。