――28日目
特に理由はなかったのだが、早めに目が覚めたので、ドルフィンポートへ向かった。
鹿児島には天文館通りという目抜き通りがある。商店街好きな僕はとくに目的もなくぶらぶらとしていた。何か有名な場所はないものかとスマホを片手にスクリーンを摩擦していたわけだが、どうやら、本場の「白くまアイス」を食べる事のできる店があるとのことだったので、開店まで周辺を散策しながら待つことにした。
「天文館むじゃき」さんの白くまアイス。かなり大きくて、途中でめちゃくちゃ寒くなってきた。
アイスを食べたら体温が下がった気がしたので、温泉に浸かりたかった。
長寿泉という銭湯を見つけたので、思わず立ち寄る。
客は僕一人で、完全貸し切り状態。一応、浴場の写真の方は自粛させていただく。
あっという間にお昼の時間がやってきたわけだけど、あまりお腹が空いていなかったので軽食で済ますことにした。
名物 「両棒餅」。ぢゃんぼもちと読む。
殆ど移動していなかったので、ここから本気出す。熊本へと向かう。
ちんたら走っていたら、夜までかかってしまった。
夕飯は長崎ちゃんぽん。熊本で食べたので熊本ちゃんぽんだが、この際些細な問題だ。
その後、お決まりの快活クラブで就寝。
夜中、途中退室して近所のファミリーマートにいったら、ライダーのおじさまに話しかけられる。オートバイ関係のお仕事をされているらしく、とっても博識だった。僕はというと、長年バイクに乗っているのにも関わらず、てんで分からないことだらけ。
ついつい雑談に夢中になってしまった。
――29日目
弁当のヒライというお店をご存じだろうか。
熊本のご当地弁当チェーン店なのだが、僕はここに行きたくてたまらなかった。なぜなら、以前日本全国をまわったときに、リサーチ不足で立ち寄れなかったからだ。
チェーン店なので見かけることはあったのだが、まさかその土地で愛されている弁当チェーンだとはつゆほども思わなかった。
というわけで、ごぼう天うどんとサラダ巻き、ちくわサラダ天をいただく。朝から豪勢だ。
ちくわサラダ天がとっても美味しい。ちくわにポテトサラダをしこたま詰め込んで、てんぷらにした贅沢極まりない一品。
満腹になったところで、そのまま長崎へと向かう。
途中、海中鳥居へと立ち寄る。
地元民と勘違いされて、ツアー客の中国人に話しかけられる。(なんでこんなに話しかけられるんだ?)
たどたどしい日本語が非常にキュート。最初英語で話しかけられたのだが、偏差値8しかない僕はほとんど英語が話せないため、情けない思いをした。
長崎へ到着。
ガラスの浜、というところに立ち寄って散歩していると、天気雨が降ってきた。
大急ぎで雨宿りしたのだが、結構長引く雨で、止むまでにかなりの時間を要した。
雨にぬれると体力が奪われる。
市街地についた僕は、休憩がてらにコンビニの駐車場でコーヒーをキメていた。
すると、またもやライダーに話しかけられる。小洒落たアメリカンバイクに乗ったライダーだ。
気さくで、ちょっぴり無頼な感じのするお兄さんだった。
製造業に従事していたが、色々あって退職し、無職らしかった。僕の仲間だった。
人生色々ありますよ。と、僕たちは頷きあった。
長崎と言えばトルコライスなので、午後5時くらいだったのだが、夕飯を食べることにした。
客が僕しかいなかったので、暇だったのだろう。マスターがしきりに話しかけてきた。東京の方から来たことを告げると「若いからできるねぇ~」と、感嘆とともに月並みな言葉をいただいた。
再び快活クラブにて就寝。
――終わりに
家出してから約一カ月が経過した。
家の者とも、親しい人間とも連絡を取らないでいると、現実感が薄らいでいく。
でも、悪い気分じゃなかった。
そもそも、現実を忘れるために家出したのだから、願ったりかなったりなのだ。
孤独によって寂しさや苦痛を感じたりはしないが、単純に人と話したくなる時は、ほんの少しだが、あった。
だから、このころ―― 一カ月ほど経過した時分から、ほんの少しだけ、帰路につく事を考え始めていたのだった。
あと半月分ほど、続きます。